経常収支比率が正しい財政分析には使えない3つの理由

自治体の財政状況を分析し、公表するときに、よく用いられる指標の1つが「経常収支比率」。今回は、これについて説明するとともに、財政分析に使えるのか、使えないのかといった点について、考察しようと思います。

そもそも経常収支比率とは

経常収支比率とは、「経常経費充当一般財源/経常一般財源」(単位:%)という算式で表される財政指標です。

「経常経費充当一般財源」とは、端的に言うと「経常的に支出する経費のうち、一般財源(地方税+地方交付税)で対応するもの」、「経常一般財源」とは、「経常的に入ってくる一般財源歳入」のことです。

前者を分子に、後者を分母に置く分数をとることで、「経常的な支出を、経常的な収入でどれくらいまかなえているのか」ということを表すことができる…というのが、この経常収支比率の考え方です。

一見すると、財政状況の逼迫具合が端的にわかる、とても良い指標のように見えます。でも、本当にそうなのでしょうか。

 経常収支比率は財政分析には使えない!

私は、この経常収支比率は、はっきり言って「財政分析には使えない」ものだと認識しています。以下、その理由を述べます。

【理由1】「経常経費」の明確な定義がない

「経常経費」とは、要は「経常的に支出される経費」ということで、たとえば人件費や扶助費、公債費などがここに含まれます。

たとえば、単純な借金返しの公債費や、生活保護費の支出といった、いわゆる義務的経費であれば、「財政状況を圧迫する支出」として直感的にも理解できますし、実際にそのとおり分析して差し支えないでしょう。

でも、たとえば、「中学卒業までの医療費全額無償化」に要する経費って、どうでしょうか。この手の施策というのは、通常、財政状況にゆとりがなければ実施することができませんが、財政分析上は、あくまで「経常的な経費」という位置づけになり、ほかの扶助費と同様に、財政状況を逼迫させる要因として整理されることになります。

でも、もし、経常収支比率が高止まりしている自治体が、この医療費無償化施策を実施していたとしたら、果たして皆さんは、その自治体を「財政難の自治体」というふうに評価するでしょうか…。

逆に、経常収支比率が高すぎて財政状況を責められている自治体の場合、経常収支比率を下げるために、本来「維持補修費」であるような経費を「投資的経費」…すなわち臨時経費と経理するような手法もあり得ます。

これらは別に不適切な経理でもなんでもなく、決算統計のルールの範囲内で行われていることであり、誰かを責めることはできません。

要は、「経常経費」のところに入っている経費の中身について、具体的な基準がないがゆえに、各団体横並びの評価が難しい、ってことですね。

【理由2】「経常一般財源」の状況が異なりすぎる

経常収支比率の分母は「経常一般財源」です。これは要するに「地方税+地方交付税」のことなのですが、たとえば市町村の場合、ここに言う「地方税」の中には都市計画税が含まれません

一般的に、都市計画区域を有する自治体は、都市計画事業の財源として都市計画税を課税し、活用していることと思いますが、そのような団は、税収の一部が経常収支比率の分母から放り出されることになりますので、比率の数値が悪化しがちです。

ところで、この状況、財政状況はそのままに、テクニック1つで指標だけを簡単に改善させることができてしまいます。それはどうするかというと…。

  1. 都市計画税(税率0.3%)を廃止
  2. 固定資産税を超過課税(標準税率1.4%+超過課税0.3%)

こうすれば、財政状況への影響はほぼないままに、経常収支比率を大幅に改善させることが可能です。もっとも、経常収支比率をよくするためだけに、自治体の地方税条例を改正することが現実的とは思えませんし、仮にこれを実現すると、今度は実質公債費比率の方が悪化するという別のトラップがあったりするのですが、要はこれも「テクニック1つで指標を簡単に動かせてしまう」ということの1つの実例、ということでご理解いただければと思います。

【理由3】臨時財政対策債の発行額で比率をコントロールできる

先ほど、「経常一般財源」は大きく「地方税+地方交付税」といいましたが、厳密には「地方税(都市計画税除く)+普通交付税+臨時財政対策債発行額」です。

この臨時財政対策債は、普通交付税の算定に用いる基準財政需要額を一部振り替えることで発行可能額が算定されるしくみになっていますが、発行可能額を満額発行しないこともできます。

ということは、ここで臨時財政対策債の発行を手控えると、分母が小さくなり、比率を悪化させることができるのです。

でも、ここにはトリックがあります。経常収支比率の悪化によって財政状況が悪くなったように見えるのですが、臨時財政対策債を発行せずとも財政運営が回せる、ということは、実は財政状況は逆に良いというふうに考えるのが自然です。

しかも、臨時財政対策債の公債費償還は、その相当額が後年度の普通交付税に加算されますが、これは発行可能額の有無にかかわらずの措置なので、臨時財政対策債の発行を手控えた場合、後年度は「公債費は支払わなくて良いけど、それに相当する財源は交付税でもらえている」という、非常に財政運営城有利な状況を作り出せる、ということなのです。

でも、繰り返しになりますが、外形上は「経常収支比率の悪化」ということで、財政状況を必要以上に悪く見せることができてしまう、ということになるのです。

まとめ

このように、経常収支比率については、一見、わかりやすい財政指標のように見えて、実は細かい部分を見ていくと、必ずしも財政状況の実情を表すものではないばかりか、場合によっては逆の状況を表しかねないということを、今回、確認していきました。

これらの議論は、財政のかなりマニアックなテクニック論になりますので、正直、わかりにくいところではあるのですが、財政状況の悪い自治体、あるいは逆に良すぎることで批判を受けている自治体は、その分かりにくさをある種利用して、財政状況の真実を見せないようにしていたりすることもあるから困ったもの。

そういうところに惑わされることなく、真実を見抜くためには、こういうマニアックな議論から逃げてはいけない、ということですね。

難しい議論にお付き合いいただき、ありがとうございました。