標準財政規模を算数的に紐解いたら面白いことが分かった件

標準財政規模。自治体の標準的な財政規模を表す数値です。

今回、この標準財政規模を算数的に分析することで見えてくる、財政規模以外の一面についてお話ししようと思います。

そもそも標準財政規模とは

そもそも標準財政規模という数値の求め方ですが、この数値は、実は自治体の実際の予算・決算とは一切関係がありません。

標準財政規模は、具体的には、下記の算式によって求められます。

 標準財政規模=標準税収入額等+普通交付税+臨時財政対策債発行可能額

つまり、「各自治体の標準的な一般財源総額」を表しているもの、といえるでしょう。ただし、ここに言う「標準税収入額等」は、普通交付税の算定結果から導かれるものなので、必ずしも実際の税収とはリンクしていない点に留意が必要です。

標準財政規模を算数的に解析

ところで、この標準財政規模について、少し算数的に紐解いてみようと思います。具体的には、計算過程を踏まえながら式変形をかけてみよう、というものです。

標準税収入額等

まずは「標準税収入額等」。これは「基準財政収入額のうち、75%算定されている税目を100%に戻した数値」です。

皆さんご存じのとおり、基準財政収入額は、一部の税目(地方譲与税含む)を除いて75%しか算定されないわけですが、残りの部分…25%部分のことを「留保財源」といいます。

従って、「標準税収入額等」は「基準財政収入額+留保財源」というふうに変換することができるのです。

普通交付税と臨時財政対策債

次に、「普通交付税」ですが、これは「(臨時財政対策債振替前基準財政需要額-臨時財政対策債発行可能額)-基準財政収入額」となります。

普通交付税の算定が「基準財政需要額−基準財政収入額」であることは広く知られた話ですが、臨時財政対策債の振替を厳密に考えると、上記のような式になりますね。

そして、基準財政需要額から振り替えた臨時財政対策債発行可能額控除分は、後で臨時財政対策債発行可能額として加算する、という形でトータルが一致します。

普通交付税と臨時財政対策債発行可能額を合わせた数値を「実質的な普通交付税」というような言い方をすることがありますが、これは「臨時財政対策債も含めないと標準的な行政経費の財源が保証されてないでしょ」というような考え方に基づくものです。

これらの置き換えを反映すると…!

標準財政規模の算式について、上記のような考え方に基づき、式変形をを行うと、下記のようになります。

なお、色は上記の解説と対応しています。

 標準財政規模=(基準財政収入額+留保財源)+{(臨時財政対策債振替前基準財政需要額-臨時財政対策債発行可能額)-基準財政収入額}+臨時財政対策債発行可能額

そして、これの+・-を計算していくと…

 標準財政規模=臨時財政対策債振替前基準財政需要額留保財源

というふうになります。

途中、複雑な計算式を通ったので、頭がこんがらがったかもしれませんが、最終的にはすごくシンプルな形になりました。

要は、標準財政規模というのは「振替前ベース基準財政需要額」に、交付税で算定されない税収の25%を加えたものだ、ということなんですね。

 標準財政規模は財政格差を織り込んでいる

ところで、この標準財政規模に含まれている「留保財源」について、これは一般には「税収のうち、普通交付税の算定に反映されない残り25%分」と言われています。

税収が増えると交付税が減るわけですが、税収が増えた分と全く同額交付税が増えると、自治体に税収増のインセンティブが働かなくなるので、あえてすべてを算定しないことにより、「税収が増えたときの自治体取り分を残す」という形にして、税収増の恩恵が自治体に及ぶことになり、その財源は自治体の政策的経費に充てることができる、というのが留保財源の考え方です。

ということは、この「留保財源」は、税収が多い団体ほど多くなる…裏を返すと、税収が少ない団体は、この留保財源が少なくなる、ということを意味しています。

「そんなの、税収の一部なんだから当然じゃん」。

はい、確かにそうなんです。でも、一方で、冒頭の「標準財政規模」の定義に戻ってみると、「各自治体の標準的な一般財源総額」となっています。

「標準的な」…ということで、自治体の状況によらない状況をつい想像してしまいがちなのですが、実はこの標準財政規模は、このように「税収の多寡…すなわち財政力の強弱が反映される」という数値になっています。

これ、よく考えれば分かることなのですが、よく考えないと分からない。非常に難しいところなんです。

まとめ

今回、標準財政規模を算数的に解析してみることによって、標準財政規模が実は留保財源を含み、財政力の強弱が反映される数値であることを確認しました。

標準財政規模は、財政規模を表すと同時に、健全化判断比率の分母になったりするなど、さまざまなところで用いられる財政指標の1つです。

言葉のイメージに引きずられることなく、正しく理解しておくと、新しく見えてくるものもあるのでは…そんな気がしてきますね。